どんなにスクディノに見えようとディノスクです。

ここはスク受サイトです。

そこのところを踏まえてお願いします。(平伏)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一次接触

 

両手の指を合わせても尚余る人数を叩き伏せ、その間に立つ痩躯の頭髪が陽光を弾いて眼に痛い。

その真っ白な頬に血の赤を僅かに飛び散らさせて泰然と歩み寄ってくる様子は、ゆるゆると獲物に狙いを定め、優雅に尾をくねらせ距離を縮める鮫のようだった。

逃げ出すことも悲鳴を上げることもできず、その姿をディーノはただ惚けたように眺めるしかできない。

実際、意識は跳んでいた。

だから間近に迫った、まるでキスするかのような距離に静止した相手の顔に気づけなかった。

十数人相手に立ち回りしたばかりとは思えないほど、乱れ一つ無い静かな呼吸。

薄い剃刀のような灰色の瞳が、瞬きによって白い皮膚に覆われてもう一度その色を見せた瞬間にようやく現状を理解して、ディーノは咄嗟に固く目を閉じた。

これ以上それを覗き込んだら自分が隅々まで切り開かれて、なにもかも余すところ無く相手に晒け出してしまいそうで。

けれどそれも耳に届けられた言葉によって徒労に終わる。

「目、閉じんな」

掠れたような、だが耳に心地よい声が吐息と共に吹きかけられた。

(う、わ)

くすぐったいように触れていったそれにかっと顔に血を上らせて、命じられるままにそろそろと瞼を開けたディーノはその先にある相手の顔に鼓動を速め不整脈に陥った。

(し、心臓破裂するかも…!)

眼差しは鋭利に過ぎていっそ凶悪なほどだが、その面差しは意外に整って随分と綺麗だ。

虹彩に影を落とすけぶる睫さえも光沢のある薄い銀で、本当にどこもかしこも銀色なのだと感嘆する。

「てめぇ、名前は?」

色も厚みも薄い唇が動くのを目で追ってから、ようやく意味を汲み取ってディーノはあたふたと答える。

「ディッ、ディーノ…」

勢い込んで答えた最初と違って最後の発音が消え入るようになってしまったのは、己を恥じたからだ。

目の前にいる相手とはまったく正反対の意味でキャパッローネの跡継ぎのへなちょこぶりは有名だろう。ディーノはこの銀色の美しい生物の名前を知っていた。

この学校で、いや、近郊のマフィアで知らない者はまずいないだろう。

それほどに、彼は際だった存在だった。

「ディーノ?」

案の定、彼、スクアーロはディーノのことを噂で聞いたことがあるらしい。いぶかしげに呟いて、しげしげとディーノを眺めてくる。

「てめえが?」

「そ、そうだよ!」

いたたまれなさに怒鳴れば、ようやく顔を離したスクアーロが大きく鼻を鳴らして笑った。

「はっ!」

歪めた口元と馬鹿にしきった目はあきらかに嘲笑だったが、何故かそれはディーノに向けられたものではないように感じられた。

「へなちょこ、なぁ」

もう一度しげしげと顔を覗き込むスクアーロは、挑発的に目をぎらぎらと輝かせ、もう一度ぐっと顔を寄せてこの上なく愉しげに囁く。

「あんな目ぇしておいてか?」

「目…?」

あえぐように答えるディーノの琥珀色を見つめ、スクアーロは彼をへなちょこと呼び称する周囲を嘲る。

あんな目をする奴がへなちょこでなどあるものか。

あれはスクアーロの慣れ親しんだ存在と同じ、力を揮う者の、支配者の眼差しだ。

冷徹に己の持つ武器を、駒を使役し、正しく価値を把握する剣の主だ。

「おもしれぇ」

例え今はへなちょこと呼ばれようと、この相手はいずれ真価を発揮するだろう。

あんな目をする男が、いつまでも微眠んだままでいるなんてありえない。

退屈なばかりの生け簀だが、愉快な奴もいたものだと、スクアーロはひさびさに機嫌を上向けた。

「俺はスクアーロだ」

「知ってる!!」

「そうかぁ」

跳ね返った答えに満足して、今までの態度が嘘だったようにあっさりとディーノの横をすり抜けスクアーロは上機嫌に歩き出した。

くそつまらない喧嘩があった事など頭から吹き飛ばしたスクアーロを半ば見送って、ディーノははっと気付いたように慌てて彼を引き留める。

「スクアーロ!」

「あぁ?なんだぁ?」

「あ、あれ!!あいつらどうするんだよ!!」

くるりと振り返った小さな頭に背後にごろごろと転がった十数人、タイの色から判断して上級生を指さす。

「放っとけぇ」

興味なさそうに自分が沈めた相手を見やってすたすたと行ってしまおうとするスクアーロの後を追って走り出し、ディーノはお約束のように盛大にすっころんだ。

ただ転んだにしてもにぎやかすぎる物音にもう一度振り返ったスクアーロは、奇妙な格好で地面につっぷしている金色の頭を見下ろす。すぐにがばっと起きあがって照れくさそうに擦りむいた鼻の頭でなく、頬をかくディーノになんともいえない目線を送り、今度こそスクアーロは屋上を後にした。